昼食後しばらくロビーで寛いでいると,赤いジャンバーを羽織った現地人の男性がやって来た.彼は「こんにちは,一緒にベレンティに行きましょう」と流暢な日本語で話しかけてきた.彼がこのフォール・ドーファン在住のベレンティ保護区のガイドらしい(彼は以前マダガスカルで仕事をしていた日本人の動物学者の助手をやっていて,日本語を覚えたそうだ).結局ベレンティ保護区に向かう車には,我々の他,ラベさん,運転手,そしてこの赤ジャンのガイドの5人が乗り込んだ.オーッ,客よりも現地スタッフの方が多い,まさに皇帝の旅行だなどと悦にいる我々であった.
フォール・ドーファンからベレンティ保護区までは,国道13号線を南西に約90kmの行程である.日本の感覚なら高速道路で1時間,一般道でも2時間弱といった距離だが,ここマダガスカルではそうは行かない.一応国道と名乗ってはいるが,日本の感覚では林道に近いような道路であった.フランスの植民地だった1950年代に舗装されて以来,そのままになっている道路である.半世紀の歳月の間にあちこち舗装がはがれ,道路は穴ぼこだらけになっている.自動車はせいぜい時速30〜40キロ程度で,穴ぼこでは徐行しながら進むので,90kmの行程に3時間以上かかるのであった.しかし,別に急ぐ旅行ではないので,周囲の景色を見ながら行くことにした.
フォール・ドーファンとベレンティの間には山岳地帯があり,峠を境にして気候が一気に変わる(フォール・ドーファンは熱帯雨林の町だが,ベレンティは砂漠地帯).出発当初は,鬱蒼とした木々が茂る森林地帯を進んでいくが,徐々に木が少なくなってくる.山岳地帯に差し掛かったところで,件の赤ジャンのガイドが,「あっ,カメレオン」と言って車を停めさせた.降りて彼の示す方向を見ると,確かに赤茶けたカメレオン(木の枝に擬態しているようだ)が木の枝にいた.それにしても,走っている車の中からよく見つけられるものだ,と違う意味で感心した私だった(やはりアフリカの人々の視力は凄いらしい).また,この地域でしか自生していないという三角椰子や旅人の木といった珍しい植物もチラホラと見られた.三角椰子は一見,何の変哲もない椰子に見えるが,この辺にしか生息していない珍しい椰子である.また旅人の木は,オオギバショウ(扇芭蕉)という和名もあるが,英名”travelers
tree”の訳である,この”旅人の木”という名で知られている.名前の由来については2つの説があり,ひとつは葉っぱが東西方向に伸びるという性質から,旅人に方向を教えてくれる道標になるからという説,もうひとつはこの木の葉柄には水が蓄えられており,刃を入れると水が出てくるため,乾燥地帯を旅してきた旅人がこの木から貴重な水を得ることことから名付けられたという説でである.どちらの説にせよ,旅人にとってはとてもありがたい植物なのである(現地の人たちはこの木を無駄なく使って家を建てたりするらしい).
その後峠に入ると,周囲の景色が一気に変わる.大きな木がなくなり,周囲は乾燥したサバンナの様相になった.ふと見ると,妙な形の木が生えている.これがマダガスカル名物(?)のバオバブの木である.サン・テグジュペリの「星の王子さま」にも登場するバオバブは,全世界に9種類あるそうだが,そのうち6種類がここマダガスカルに存在するのだという.バオバブの木のそばには,露天の土産物屋も出ていた.
更に進んでいくと,周囲はどんどん砂漠っぽくなってきた.途中何度か大きな川を渡ったのだが,川の橋も道路並に狭く,しかも歩行者も大勢歩いているので,超徐行運転になっていた. |
ベレンティ保護区のガイド氏と |
国道13号線沿線果物屋です |
これが旅人の木です |
これがフォール・ドーファン付近にしか自生しない三角椰子 |
ガイドが驚異の視力で発見したカメレオンです |
峠を越えると植生が一気に変わり,サバンナの様相になる |
マダガスカル名物(?)バオバブの木です |
土産物を勧められるK |
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