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ニューカレドニア旅行記(6)


8.2001年11月15日(木)

 一晩たってKの調子はだいぶ良くなったようだ.この日の朝食はルームサービスである.私は和食,Kはまだあまり食べられないということでパンである.和食にはご飯と味噌汁,おかずに大きな焼き魚がでた.なかなか旨いが,さすがに全部は食べ切れなかった. 
 今日の活動は主に陸地での活動,ラ・リヴィエール・ブルー州立公園へ行くツアーである.ホテルの玄関口に集まり,送迎の車に乗る.参加者は我々のほかに,横浜から来た夫婦,大阪から来た母娘,それにフランス系の母親と息子,そしてガイドの男性(フランス系っぽい,日本語の上手いお兄さん)である.
 車はホテルを出て市街地を抜け,やがて山の方へと入っていく.そのうちに公園の入り口ゲートが見えてきた.今日は曇り空だが,雨が降りそうなわけではない.この入り口ゲート付近でも,めずらしい植物を観察することができた.
 まず,ニューカレドニアといえば,ユーカリのようなフトモモ科の木「ニアウリ」がよく知られており,そのすがすがしい香りの精油は薬用として広く用いられているが,すがすがしい香りの植物はなにもニアウリだけではなかった.名前はわからなかったが,地面に生えている小さな草花の根を,ガイド氏が掘り出して我々ににおいをかがせる.すると・・・まるで「タイガーバーム」のような香りがするのだった.なんだか薬効がありそうであるが,実際どうなのだろう.そのほかにもこのゲート付近には,地上最初の陸上植物と呼ばれ,ニューカレドニアの固有種とされる「アロカリア」や,木の幹から直接花を咲かせる変わった木(名前は不明)を見ることができた.


リビエール・ブルー州立公園の入り口.野生のカグーに会えるでしょうか.

木の幹から直接花が咲くというとても変わった植物です(名前は忘れました).


 その後我々は公園内に入り,途中様々な植物の観察を行った.ところで,この日はやや雲の多い日であったが,この赤土がむき出しになっているところは,晴れた時にはかなりの高温となる.まるでフライパンの上にでもいるような感触といっても過言ではない.そのため,この辺に生えている植物は,少しでも多くの水分を確保するため,簡単に水分が失われないように葉を分厚く,硬くするなどの進化をとげているのである.今日はカンカン照りでなくてよかったと心から思った.
 その後我々は再び車に乗り,さらに奥へ進んでいく.途中にはヤテ湖という人造湖があり,この一角にはたくさんの枯れ木が湖に沈んだ「フォレ・ノワイエ」(沈める森)とよばれる見所がある.そのたたずまいは,まるで上高地の大正池のようであった.ほかの参加者と「ニューカレドニアの大正池ですね」などと言い合ったものである.
 この大正池もどきの「フォレ・ノワイエ」を見た後は,また移動である.今度はガイド氏は道路わきに車を停め,ドアを開けた状態でステレオから何か音を流している.どうやらこれはあの「カグー」の鳴き声らしく,この声で彼らをおびき出そうという魂胆なのであった.カグーはこの公園内に約200羽ほどが生息しているといわれているが,手厚く保護されているとはいえ希少種である.そう簡単に出てきてはくれないだろう・・・と思っていた.しかし,しばらくすると「カグーだ!」の声.なんだなんだ,と思って森の方を見ると,鶏ぐらいのサイズのグレーの体色をした鳥が,こちらに向かってチョコチョコと走ってくる.おお,カグーだ!昨日ヌメアの動物園でも見たが,今私の目の前にいるのは,まさに野生のカグーである.Kは以前,NHKの「生きもの地球紀行」で野生のカグーの生態についてやっていたのを見たといっていたが,その野生のカグーをこうして生で見られたことに感激もひとしおであったと語っていた.ところでこのカグー,前に一属一種と書いたが,現在地球上に同属,あるいは近縁の種は生息しておらず,分類学上大変貴重な種であるとされている.ニューカレドニアには(島嶼ではよくあることだが),元来彼らを捕食するような大型哺乳類は生息しておらず,飛んで敵から逃げる必要もなかったために飛翔能力が退化したとされるが,人間が犬や猫を連れて入るようになってから,その飛翔能力の退化が仇となって激減したようである.ちなみに,カグーはディスプレイの際に頭部にある冠羽を広げる(そのためだと思うが,Kが持っていたという「学研の図鑑 鳥」には「カンムリサギモドキ」という和名で収録されていたそうだ)が,さすがに我々の前で冠羽を広げるというサービスはしてくれなかった.


ご存知,食虫植物のウツボカズラです.子供の頃の憧れの植物でした.

リビエール・ブルーの大正池です(北海道野付半島のトドワラというウワサもあるが).


 「綺麗な羽色だったよねー」などと,みんなでカグーに関する感想を口々に述べながらこの地を去り,更に奥へ進む.そして昼食会場の近くまで来る.ここでの目玉は,食虫植物「ウツボカズラ」である.そう,あの「落とし穴」スタイルの捕虫袋で虫を捕らえ,消化液で溶かして自らの養分とする,あの「ウツボカズラ」である.(ロールプレイングゲーム「FFZ」に登場するダンジョンのひとつ「古えの森」に,プレーヤーが食虫植物に虫や蛙を入れて蓋を閉じさせ,その上を渡るという仕掛けがあったが,このモデルは明らかにウツボカズラであろう)日本では温室か熱帯植物園にでも行かないと見ることのできないあのウツボカズラが,ここではその辺に生えているのである.今回わかったのだが,この「捕虫袋」は葉の先端の部分が延びて変形し,あのポットのような形になるらしい.是非虫を捕まえてきて,あの捕虫袋に入れてみたいものである.

 ここでの昼食はバーベキューである.公園内ではそのための設備も用意されており,ガイド氏が早速火を起こしていた.メニューは牛焼肉と鹿肉のソーセージ,野菜とクスクス(粒状のパスタのような食品)のサラダである.Kもまだ完全回復ではないものの,食べられるようであった.肉が焼けるまでの間,我々は世間話に花を咲かせていた.丁度この時期は,日本でも例のBSE騒動の最中で,横浜からの男性も,「会社の食堂から牛肉関係のメニューが消えた」と語っていたが,我々はかまわずに食べるのである.
 そのうちに肉が焼け,皆で食事である.自然の中で和やかに談笑しながらの食事はやっぱり旨い.ところで,このメンバーの中で最も寒い地域に住んでいるのは恐らく我々である.盛岡は恐らく本州で最も寒い県庁所在地であろう.冬は平気でマイナス10度近くになるという話をしたらみな驚いていた.そう,我々は普段寒冷地に住んでいるからこそ,南の島に憧れるのである.昼食会場の裏手には澄み切った川が流れており,入ったら気持ち良さそうであるが,誰も入る人はいなかった.


ガイドがカグーの鳴き声を流すと,なんと!野生のカグーが現れた.

我々の前に現れた野性のカグー.あまり人を恐れる様子はありません.

ここが昼食の会場です.ガイドのお兄さんがバーベキューを焼いてくれました.


 食事の後は,この公園の植物学上の最大の目玉,古くから木材として広く使われてきたという,Kと同じ名前の巨木である.高さ約40m,幹の直径約3m,さすがに屋久杉のようにはいかないが,古くからこの公園の森の営みを眺め続けてきたのであろう.なかなかの風格である.この木の周辺には遊歩道があり,各種の熱帯植物を観察することができる.ここニューカレドニアは固有種が多く,その植生から見ても,かなり歴史の古い島であることがわかるようだ.そしてその帰り,再び車を停めて,カーステレオから例のカグーの鳴き声を流したが,今回はカグーは現れなかった.
 あっという間にリヴィエール・ブルーを去る時間である.公園のゲートを去り,次に我々は,道路沿いの何やら湧き水があるところに連れて行かれた.どうもここの湧き水は有名で,地元の人もポリタンクに詰めて持って帰るらしい.岩手県内にもこのような湧き水は各地にあるが,ニューカレドニアにもあるのは驚きであった.その後各地で他の参加者は下車し(フランス人母子は大型スーパーの駐車場で,大阪の母娘はパークロイヤル・ホテルで),我々もまたホテルへと戻ったのだった.
 この日の夕食は,ビュッフェスタイルのレストランである.ここにはマグロの刺身もあったので,食べてみると切り落としで1パック398円ぐらいで売っているような赤身の味だった.まだお腹の調子がいまいちでないKも,ビュッフェなら調整ができるであろう.食事の後はロビーに面したバーでカクテルを飲み,ほろ酔い気分で部屋に戻って眠りについた.
 さあ,いよいよ明日はニューカレドニア最後の一日である.


ニューカレドニアの誇る巨木KAORIの木です.

ニューカレドニアの水汲み場です.フランスでいえばevian,岩手では龍泉洞でしょうか.

ホテルの前で.真ん中がガイドのお兄さん.左側が横浜からきた新婚さん.


 

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