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 尾瀬旅行記(2)

 2021年6月10日(木)


5.鳩待峠

 明けて6月10日,この日は5時半に起床する.夏至が近い時期だけあり外はすでに完全に明るくなっていた.6時に食堂へ行き朝食を食べる(戸倉温泉にはたくさんの旅館やロッジがあるが,朝6時から朝食が食べられる宿はあまりない).鮭の切り身,卵焼き,納豆という定番の朝食だった(この日もご飯はお替り自由).
 朝食後はそのままチェックアウト,車で近くにある尾瀬第1駐車場に移動する.ピークシーズンの尾瀬は特に土曜日などは大混雑で,この駐車場も満車になるとのことだが,この日は木曜日(しかも東京には緊急事態宣言)ということでかなり空いていた.
 駐車場から尾瀬の群馬県側の入り口である鳩待峠まではバスか乗り合いタクシーでの移動となる.バスは大体1時間に1本で,その間の時間を乗り合いタクシーが埋めている.我々が駐車場に入ったのは6時50分頃で,バスの時間まではかなりある.必然的にタクシー利用となった(ただ駐車場−鳩待峠間はバス・タクシー同額なので金銭面での問題はない).

朝食です

黙乗の文字が…
 
 ただタクシーは乗り合い制で定員にならないと出発しない.我々が乗り込んだ時にはまだほかに客がおらずしばし待つことに.車内は感染対策が施されていたが,助手席の背後に貼られていた黙乗という文字が印象的だった.平日で空いているとはいえ,尾瀬に向かう観光客はそれなりにいるのでそれほど待たずに席が埋まり出発となる.
 駐車場を後にして狭い道を揺られること20分ほどで鳩待峠に到着,ここから先は徒歩以外の交通手段がない世界である.トイレを済ませて身支度を整え(靴ひもを締めなおし,スパッツを装着)まずは尾瀬沼の入り口,山の鼻を目指す.時計を見たら7時55分をさしている.鳩待峠の標高1590mに対して山の鼻は1410m,この180mの標高差を3.3kmで下っていくことになる(平均斜度5.4%). 
 

尾瀬第1駐車場

鳩待峠休憩所

ここからは徒歩
 


6.山の鼻へ

 遊歩道は基本的に木道と木の階段がメインで,所々石の階段のところもある.尾瀬に限らず木道は乾燥した状態なら快適だが,雨上がり後などの濡れた状態では非常に滑りやすくなる.ただここ数日は天気が良かったのでこの日は日陰を含め木道は乾いており,歩行に問題はなかった.もっとも下り道は心肺への負荷は少ないが,油断すると足首を痛める可能性があるため慎重に進む.また後からは健脚の方々が早いペースでやってくるため,そういう人たちを先にやり過ごしながらゆっくり進んでいった.
 この区間は基本的に雑木林地帯なので展望はあまりないが,それでも周辺に咲いている花々を見ながらの移動となった.約1時間で山の鼻に到着,最初の小休止だ.売店で尾瀬の植物図鑑やクマ鈴を購入し,その後トイレを使った(尾瀬のトイレは1回100円のチップ制となっている).

尾瀬の木道,複線の場合は右側通行

沢がきれいです
 

尾瀬の花

尾瀬の花

至仏山荘
 


7.尾瀬ヶ原

 小休止後いよいよ尾瀬ヶ原に入っていく.周囲の視界が一気に開け,ガイドブックでおなじみの尾瀬ヶ原の絶景が広がっている.日ごろの行いの良さもあり(笑)一面快晴の青空だ.青々とした湿原のかなたに向かって二本の木道がひたすら伸びている.我々が目指す方角には東北地方最高峰である燧ケ岳(標高2,356m)の雄姿が遠くに見えていた.また後ろを振り返ると雪渓の残る至仏山(標高2,228m)が目の前に鎮座している.早くも尾瀬の絶景に感動する我々だった.
 ここからの尾瀬ヶ原横断は標高差がほとんどない,平坦な湿原に敷かれた木道をひたすら歩いていくことになる(湿原保護のため木道から外れることは禁止されている).この辺りの木道は基本的に複線で原則右側通行である.ピークシーズンの土曜日などは人で渋滞することもあり,おちおち写真も撮れないというウワサだったが,木曜日の朝は人影もまばらで回りを気にせず自分のペースで歩くことができた.しばらく進んでいくと,たくさんの荷物を背負った歩荷の姿を見かけた.自動車の乗り入れができない尾瀬ではヘリコプターとともに歩荷が貴重な輸送手段となっているのである.

遠くに見えるのが燧ケ岳

こちらが至仏山
 
  ところで,歌曲「夏の思い出」にも登場する尾瀬を代表する植物が水芭蕉である.雪解け後の水辺や湿原に姿を現し,可憐な姿を見せてくれる.一般に白い花というイメージがあるが,実はあの白い部分は仏炎苞という葉が変化したもので,本当の花はその中にあるヤングコーンのような部分である.尾瀬では5月下旬から6月上旬が開花のピークとされていますが,近年は温暖化の影響で見頃が早まっているらしい.昨夜の旅館の人によると,今年は尾瀬ヶ原付近はすでにピークを過ぎているとのこと.ただ少なくなったとはいえ,まだまだ群生している姿を見ることができた(木道の脇など日陰になっているところに多い).
 尾瀬ヶ原を北東に進んでいくと次第に前方の燧ケ岳が大きく,後方の至仏山が小さくなり確実に歩いてきていることを実感する.尾瀬の湿原には池塘と呼ばれる小さな湖がたくさんあり,空の青さや湿原の緑との色彩の対比が素晴らしい.池を覗くとイモリが泳いでいる姿も見えた.
 

少数ですが水芭蕉の群生

植物のチェック

水芭蕉
 

歩荷の姿が

美しい池塘

イモリが
 

至仏山と尾瀬ヶ原

風があるので逆さ燧は微妙
 


8.牛首分岐から竜宮小屋

 山の鼻から40分ちょっとで牛首分岐と呼ばれる木道の分岐点に到着する.ここをまっすぐに進むと竜宮小屋,左に折れるとヨッピ吊橋への木道が分岐しており人の流れもここで2つに分かれる.分岐点にはベンチの設置されたテラスがあって休憩に便利,我々もここでしばし小休止にした.
 10分ほど休んで再び歩き始める.この日は牛首分岐をまっすぐ竜宮小屋方面に向かった(時間的に竜宮小屋で昼食タイムにしたかったことが主な理由).この辺りは尾瀬湿原の中央部というべき地域でたくさんの池塘や沢がある.それらの沢の一つを渡ろうとしたら,なにやら沢の対岸に柵がめぐらされているではないか.今当地では鹿の食害が問題になっているらしく,尾瀬の代名詞の水芭蕉も食害で数を減らしているのだとか.この柵もそうした鹿対策の一環のようだった(実際柵の内側には水芭蕉が結構あった).

休憩用テラスもある牛首分岐

至仏山が徐々に遠くなります
 

川の手前に柵が!

鹿対策のようです

柵内部には水芭蕉も
 
 その先には湿原を流れる川がいったん地下に潜ったあと池塘に湧き出る現象”竜宮現象”が見られるスポットがある.伏流水が池に湧き出るといえば静岡県清水町の柿田川を思い出すが,そこと同じできれいな湧き水だった.
 そんな湿原を歩いていくとまもなく木道の分岐点と,その先に林に囲まれた建物が見えてくる.ここが竜宮十字路という分岐点,左折すると先ほど牛首分岐で左折した先のヨッピ吊橋へ行くことができる.右折すると富士見田代という尾瀬外輪山南側の尾根線へ,まっすぐ進むと尾瀬で最もにぎやかな見晴地区となる(見晴は山小屋6軒が立ち並び,尾瀬銀座と呼ばれる).十字路にもベンチがあるが,この日は見晴方面に向かうためそのまま林と建物方面へ.この建物が竜宮小屋という山小屋,2021年度は休業ということで小屋そのものは閉まっているが,小屋前のベンチとトイレは使用することができる.我々もベンチの一角に腰を下ろし昼食タイムにした(この段階で11時半).この日のお昼は持参したおにぎりと携帯コンロでお湯を沸かして作った味噌汁である(長時間歩くと塩分の補給も大事).
 

水中花状態の水芭蕉

水が湧き出る竜宮現象

林の中に竜宮小屋が
 


9.見晴地区

 ここでは約1時間の大休止,食後もしばらくゆっくりと休み,この先への英気を養った.その後トイレを済ませ12時20分に出発する.林を抜けて再び湿原地帯へ.前方には朝方は遠くに見えていた燧ケ岳がいよいよ目の前に迫ってきた感じがする(だいぶ歩いてきたなと実感).この辺は山に向かってひたすら草原を歩く感じなので,母を訪ねてのマルコの気分になりました(「♪はるか〜 草原を〜♪」などと歌いながら歩いていた 笑).燧ケ岳の麓には林が広がりその中に建物の姿が見えた.ここが尾瀬銀座と呼ばれる見晴地区である.ただ,さえぎるものがない空間なので姿は見えているがなかなかたどり着かないという感覚が不思議だった.
 それでも20分ほど歩いてやっと見晴地区に到着,6軒ある山小屋の一番手前にある弥四郎小屋で小休止である.建物が複数あるだけで都会に見えてしまうのが印象的だった.
 

竜宮小屋周囲の林の中を流れる川

見えてきた見晴地区(後ろは燧ケ岳)

見晴地区の山小屋の一つ弥四郎小屋
 


10.赤田代地区へ

 弥四郎小屋の前は三叉路になっていて,来た道をまっすぐ進むと白砂峠を経て尾瀬沼方面に,左に折れると赤田代地区から三条の滝方面に向かうことになる.この日は三条の滝を訪問する予定なのでもちろん左折だ.さっきまで正面に見ていた燧ケ岳を右に臨みながら歩いていく.改めてこの辺は燧ケ岳の麓なんだと実感したのだった.
 この日の予定は赤田代にある温泉小屋に荷物を預けて身軽になった状態で三条の滝までを往復,その後温泉小屋に宿泊というものである.ただここまでの行程で我々は結構へばっていた.鳩待峠から赤田代まで距離にして約10km,普通の土地ならそれほどでも無い距離だが,2泊分の荷物を背負って慣れない山道や木道の移動は運動不足の我々にはダメージが大きかったらしい.しかも温泉小屋から三条の滝までの片道2.2kmは距離こそ大したことないが,標高差200メートルの岩場や鎖場もあるかなりきつい登山道とのこと,特に往路が下りで復路が登りという嫌なパターンだ.時間的にはまだ1時過ぎ,標準時間で往復できれば十分夕方4時には戻ってこられるが… いろいろ考えた末,この日の訪問は断念することにした(疲労困憊,途中で立ち往生しても困るので).
 滝には行かないと決まったことから後は気楽になりゆっくりと温泉小屋を目指す.途中東電小屋へ向かう分岐路(東電分岐)で小休止し,そこからは少し登りになる部分もあったが,結局1時30分過ぎに本日の宿泊地温泉小屋に到着である.

見晴の分岐点

赤田代へ向かう木道

東電分岐
 


11.温泉小屋

 受付に行くとすでに部屋は使えること,お風呂もすぐに入れるとのことだったのでそのまま中に入る.通された部屋は8畳の和室である.今回はコロナ禍の平日ということで我々だけの個室として利用でするが,ここは元々相部屋を想定して建てられている関係で部屋に鍵が付いていなかった(もっとも何かあれば内部犯行説ほぼ100%だが)壁には宿泊の注意事項が書かれていて,寝具の利用は夕食後からとなっていた(これも相部屋利用を想定しているためだろう).

温泉小屋本館
 
 温泉小屋のある赤田代地区は尾瀬で唯一温泉が湧くところである.泉質は鉄泉でやや赤茶けたお湯が特徴だ.一日の汗を流したのは言うまでもない.入浴後は小屋の前に設置されているテラスで生ビールをいただくことに.時間的には1日で最も気温が上がる時間帯だが,標高1400mの尾瀬の空気は爽快である.チェアに寝そべってしばしウトウトしていた(山岳リゾートの気分).
 山小屋の夕食は早く,夕方5時スタートである.温泉小屋の夕食は定番のカレーライス(と牛すき小鉢)だった.ご飯はお替り自由である.またまたビールを飲んだのは言うまでもない(笑). 尾瀬地区はなるべくごみを出さないように心がけなければならないので,食事も極力完食を目指した我々だった(個人のごみは基本的にすべて持ち帰り,山小屋内で購入したビールなどの空き容器のみ回収される).
 夕食後しばらくしたら夕暮れ,周囲は真っ暗になっていく.消灯時間は21時,明日に備えてさっさと寝たのだった.
 

温泉小屋別館

生ビール!

温泉小屋の夕食
 



 

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