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 SINCE 2011年9月25日
       

 シルバー仮面

シルバー仮面は さすらい仮面
銀の光の流れ星
淋しい時には呼んでみる 兄よ妹よ弟よ
ごらん緑の地平線 そうだ僕らの故郷は地球
シルバ〜 シルバ〜 シルバ〜 ア〜

        
 
(オープニングテーマ 歌 柴俊夫&ハニーナイツ)  


1.従来型ヒーローへの挑戦

 シルバー仮面は宣弘社と日本現代企画によって製作され,昭和46年11月から翌年5月にかけて放送された特撮ヒーロー番組である.ヒーローとはいってもウルトラマンのような巨大ヒーローではなく,等身大のヒーローである(仮面ライダーサイズ).ちなみに日本現代企画というのは当時円谷プロを離脱した人たちによって作られた会社であり,そのせいなのか,このシルバー仮面はウルトラマンのアンチテーゼ的な作品を目指していたようだ.
 ウルトラマンに代表される当時のヒーロー番組の基本コンセプトは,怪獣や宇宙人によって苦しめられている人間を助けるために巨大ヒーローが登場,怪獣を退治して人々に感謝されるという勧善懲悪ものである(時代劇でいえば水戸黄門や暴れん坊将軍).シルバー仮面はこの基本コンセプトに真っ向から挑戦した意欲作なのであった(第1話の監督にあの実相寺昭雄氏を起用していることからもその意気込みが感じられる).

オープニング画面

シルバー仮面の横顔
 



2.シルバー仮面の基本設定

 まずはシルバー仮面の初期設定を紹介しよう.  

 光子ロケットの開発に成功した春日博士は,それを恐れる宇宙人(チグリス星人)によって暗殺され,さらには自宅も破壊されてしまう.しかしこの事態を予測していた博士は,自分の5人の子供たち(上から順に光一,光二,ひとみ,光三,はるか.子供とはいっても末のはるか以外は成人している)の体内に光子ロケットの設計図をひそかに隠していたのだった(どうやってひそかに隠したのかは不明).かくして春日兄弟は,自らの体内に隠されてある光子ロケットの設計図を見つけ,それを完成させるために生前博士と関わりのあった人々を訪ねて各地を旅するのである.
 しかしながら光子ロケットは宇宙を支配できるほどの力を持った存在(第1話より)のため,春日兄弟はその完成を恐れる宇宙人に執拗に狙われることになる.一方で春日博士は,生前子供たちに宇宙人と戦う道具を与えていた.長男の光一と長女のひとみには特殊銃

第1話クレジット

春日博士を殺したチグリス星人
 
を,三男の光三には宇宙人の正体を見破れる特殊眼鏡を,次男の光二にはシルバーの力と呼ばれる特殊能力をである(次女のはるかだけは未成年のためか特に何も与えられていない模様).このシルバーの力こそ,光二がシルバー仮面に変身する能力なのであった.
 物語は,春日兄弟が博士の知人を訪ねる.そこに宇宙人がやってきて騒動が起こり,関係者に被害が出る.春日兄弟とシルバー仮面の活躍で宇宙人の撃退に成功するも,騒動に困惑した知人に追い払われるかのように新しい旅に出る,というパターンで進行していく.
 一見してわかるように,主人公たちが迫害を受けてさすらいの旅を続けるという非常に暗い話である.それに追い打ちをかけるように凄いのは,シルバー仮面の世界では宇宙人や怪獣の存在が信じられていない!!ということである.つまり,春日博士が宇宙人に殺されたという事実を知っているのは兄弟だけで,世間は誰もそれを認識していないのである.春日博士自身が世間からは「おかしな研究ばかりしている変な学者(要するにマッドサイエンティスト)」という認識のようだったから,その子供たちが博士のことを熱心に尋ねれば尋ねるほど世間は引いてしまうという構図になる.春日兄弟は宇宙人と戦う以前に,世間の無理解とも戦わなくてはならない宿命を背負っているのであった.
 考えてみればこれはかなりシュールである.宇宙人や怪獣の存在が信じられていない怪獣番組! 誰もUFOを信じていないUFO番組,神の存在が信じられていない聖書の世界のようなものだ.
 こういう設定であるから,ほかのヒーロー番組の定番である人間の正義のチームは存在しないし,警察もあてにはならない(逆に第1話では人間に化けていた宇宙人の正体を見破った光三が警察に捕まるシーンがある).さらにはシルバー仮面が活躍して宇宙人を退治しても誰に感謝されるわけでもない.まさに孤独な戦い,「死して屍拾うものなし」の大江戸捜査網状態なのである.それを象徴するかのようなシーンが第7話にある.正体を現した宇宙人が商店街を逃げ回り,シルバー仮面がそれを追いかけるというシーンなのだが,周囲の人々の無関心っぷりが強烈なのだ(これが仮面ライダーなら町行く人々も驚いたり逃げ回ったりしそうなのだが,シルバー仮面では完全に我関せずという態度).まさにシルバー仮面の孤独ぶりを示すようなシーンであった.
 



3.シルバー仮面の能力

 前述のように,シルバー仮面は春日兄弟の次男,光二がシルバーの力によって変身する.ウルトラマンの銀と赤の色彩へのアンチテーゼなのか,銀と黒を基調とした造形である.その名の通り顔には仮面をかぶっていて,口の周りだけ素顔が露出しているという仮面ライダーシリーズのライダーマンのような感じである.変身の仕方は初期には特に決まっていなかったが,途中から右のこぶしを左の手掌に当てて,「アタック!」と声を出して変身するパターンになった.

シルバー仮面
 
 で,シルバー仮面の戦闘力であるが等身大ヒーローだからなのか,光線技などの飛び道具(?)はない.また仮面ライダーのライダーキックや超人バロムワンの爆弾パンチのような必殺技も特に見られない(一応主題歌の3番には「シルバーキックは命がけ〜」というフレーズが出てくるのだが,番組内でシルバー仮面が「シルバーキック!!」と叫んで敵をやっつける場面はない).さらに,空を飛べるとか,高速で走れるといった特殊能力もない.第1話で線路内で立ち往生していたタンクローリーを押して動かせるだけのパワーはあるから普通の人間と比べればはるかに力があることは確かであるが,それ以外に特徴らしい特徴もないことから見て,馬で高速移動ができる白獅子仮面やピストルという飛び道具を持っている月光仮面よりも戦闘能力は劣るのではないかと思われる.
 このことは番組を見ていてもよくわかる.クライマックス,宇宙人との戦闘シーンでもシルバー仮面の戦いは力任せの殴り合いであり,敵にとどめを刺すシーンも敵の武器を利用してやっつける,宇宙人の運転する車を壁に激突させて爆発でやっつける,さらには春日光一,ひとみの銃でとどめを刺すなど,主人公のシルバー仮面が美味しいところを持って行かないという姿勢が貫かれている.要するにあまり活躍しないヒーローというわけである(その辺はアイアンキングに類似しているが,実はアイアンキングは本作と同じ宣弘社の作品である). 
 一方で敵である宇宙人については,シルバー仮面同様地味な色彩であるものの,そのおかげでかえって不気味な雰囲気を醸し出す完成度の高いものが多かった. 
 



4.象徴的なエピソード

 そんな異色のヒーローシルバー仮面,早くも第1話でその魅力を見せつける.実相寺昭雄氏の監督で有名なエピソードであるが,冒頭いきなりサイレンが鳴り響き,爆発と家が燃えるシーンから始まる.銃声と爆発音,悲鳴と怒号が飛び交う様子は戦争映画かと見間違う雰囲気だ.そして画面全体がとにかく暗い,炎とライトの光以外は真っ暗でその中を登場人物が動き回っているのだが,はっきり言って何が何だかよくわからない.それでもとにかくシルバー仮面が登場し,宇宙人と対峙するとこ

第1話全身火だるまになるチグリス星人
 
ろでようやくオープニングテーマが始まるのだった(ここまで約7分).
 この第1話は最後のチグリス星人が倒されるシーンも強烈で,シルバー仮面とのもみあいの中でチグリス星人が発する火炎が星人自らに引火,全身火だるまになってのた打ち回りながら死んでいくシーンは一瞬子供向けドラマであることを忘れてしまうほどの迫力である(実はこのシーンほとんど事故に近い場面だったようで,これで星人の着ぐるみが再起不能になり以後の撮影が困難になったらしい).
 
 さらに忘れることのできないエピソードとして,第9話「見知らぬ町に追われて」がある.シルバー仮面はオープニングにドラマのシーンが流れるパターンだったのだが,この回のオープニングはなんと!とある村の葬列,ヒーロー番組数あれど,いきなり葬列から始まる番組はほかにないのではないだろうか.
 このエピソード,春日兄弟に化けた宇宙人が村人を虐殺し,その結果警察に追われることになった兄弟たちがその宇宙人を探し求めるというサスペンスドラマのような展開をしていくのだが,最後刑事たちの目の前で宇宙人の正体を暴き,自分たちの無実を証明した春日兄弟たちに,刑事が「宇宙人がいたなんて報告できるか.春日兄弟を騙った四人組の真犯人は逃走中に死んだ,それでいいだろう」と語る場面は,シルバー仮面の世界観を強く印象付ける場面として印象深い.その一方,シルバー仮面と宇宙人の格闘シーンではシルバーがお

第9話クレジット

卒塔婆を武器に攻撃
 
墓の卒塔婆を引っこ抜いてそれを武器に戦うという罰当たりなシーンもあった.
 その他では,両親の愛情いっぱいに育った純真無垢な少女が事件に巻き込まれるという市川森一っぽいストーリーの第4話「はてしなき旅」,オタク風の男子学生と春日ひとみとの心の交流を描いた第5話「明日のひとみは…」,後に宇宙戦艦ヤマトなどのアニソンがヒットする若いころの佐々木功,歌手の南沙織が登場する第6話「さすらいびとの荒野」も印象深い作品であった.
 



5.テコ入れによる巨大化

 そんなシルバー仮面であったが,こうしたコアな内容は当時の子供には受け入れられず(そりゃそうだろうな),しかも裏番組にミラーマンという強敵がいたこともあって視聴率が低迷し,Wikipediaによると前述の第9話ではとうとう3.8%まで落ち込んでしまった.ここまで来るとさすがにスポンサーも黙っていなかったのか,路線変更が図られることになった.すなわちシルバー仮面が巨大化し,巨大な宇宙人と戦うというオーソドックスなヒーロー番組への転換である.
 このため第10話でかなり強引に光子ロケットの謎が解け,第11話にはロケットが完成するとともに,番組タイトルもシルバー仮面ジャイアントに変更された.この第11話でシルバー仮面は偶然大量の光子エネルギーを浴びたことで巨大化したという設定になっていた(どうでもいいが,第11話で巨大化したシルバー仮面を見たひとみが,「あっ!シルバー仮面が大きくなってる」と言ってたが,大きくなったとかそういうレベルじゃないだろと突っ込みたくなった 笑).敵の宇宙人も巨大化したため,戦闘は特撮を使ったシーンがメインになる.巨大宇宙人が相手ということで,従来のように他の兄弟が戦闘に絡む場面は激減し,結果としてシルバー仮面の強さが目立つようになった.また春日兄弟を見守る存在として岸田森演じる津山博士が登場した.

シルバー仮面ジャイアント

巨大化して色彩もやや派手に

特撮を使った戦闘シーン
 
 この路線変更は視聴率的には成功し,シルバー仮面の人気も高まったが,一方で当初からの独自の世界観の多くが失われる結果となった(まあ,巨大宇宙人が暴れるようになれば,宇宙人の存在が信じられていないなんて不可能だろう).かくして巨大化以降は何となく普通のヒーロー番組になってしまい,全体的に輪郭がぼやけた感じになってしまったのである.
 このシルバー仮面,特にその前半部分(第1話〜10話)は放送当時の人気は振るわなかったものの,大人になってから見直すとかなり社会派で見ごたえがある魅力的な作品である.
 



 

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