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 魔人ハンターミツルギ

吹き荒れる 嵐のなかを
どこから来たのだろう あの若者たちは
三つの命を一つに結んで
燃える 燃える 燃える
正しい心が炎と燃える
魔人ハンター 魔人ハンター
ミツルギ参上!

 
(オープニングテーマ 歌 水上 勉)  


1.忍者巨大ヒーロー

 魔人ハンターミツルギはフジテレビと国際放映によって製作された時代ヒーロー番組である.昭和48年1月から同年3月にかけて放送された.他の項でも述べているが,昭和48年というのは変身ヒーロー番組の爛熟期で,それこそゴールデンタイムにテレビをつけると常に何らかのヒーロー番組が放送されていたといっても過言ではないほどブームが過熱していた時期である.それゆえ他との差別化を図るべく,どの番組も苦労していたのだが(それはこの手の番組の牽引役だったウルトラマンシリーズも例外ではない),そうした中で特に異彩を放っていたのが,この魔人ハンターミツルギだった.
 作品の基本設定はこうだ.江戸時代初期,さそり座からやって来た魔人サソリ率いるサソリ軍団による地球侵略が開始された.魔人サソリは配下のサソリ忍者による謀略に加え,巨大怪獣を使った破壊活動も行ってくる.危うし人類! そんな時,謎の忍者集団ミツルギ一族の若き兄妹(ミツルギ三兄妹)が立ち上がる.彼らは巨大ヒーロー,魔人ハンターミツルギに変身して魔人サソリの繰り出す怪獣と戦うのだ.

オープニング



さそり座からやってきた(?)魔人サソリ
 
 忍者ヒーローものといえば,変身忍者嵐が有名だが,嵐はあくまでも等身大ヒーローであり巨大化はしない.敵もまた後半は西洋魔人や大魔王も出てくるとはいえ,基本的には地球規模にとどまっている.そんな中,この魔人ハンターミツルギは忍者ものでありながら,宇宙侵略もの&巨大ヒーローものの要素も併せ持つ作品なのである(ヘーゲル的にいえば止揚(Aufheben)ということだろうか 笑).さらに本作最大の特徴がその戦闘シーンだ.巨大ヒーローものの戦闘といえば,着ぐるみによる肉弾戦が当たり前だった時代に,本作では人形のストップモーション撮影によるアニメーションを使っていたのである(作品ではこれをアニクリエーションと呼んでいた).これだけでも,いかにこの作品が意欲的だったかわかる.  



2.慶長二十年

 この魔人ハンターミツルギの設定をもう少し詳しく見てみよう.まずは時代であるが,実は年代がかなり正確に特定できる.なぜなら劇中に徳川家康が登場するからだ.しかも第8話では豊臣の残党云々というのが出てくることから,大坂夏の陣で豊臣氏が滅びた後であることもわかっている.すなわちこの作品の舞台は豊臣秀頼が自害した1615年(慶長二十年)6月4日から,徳川家康が死んだ1616年(元和二年)6月1日までのわずか1年の間のどこかということになるのである.
 当時はまだ豊臣恩顧の大名である福島正則,能力的には徳川を脅かす存在だった伊達政宗が存命であり,幕藩体制はまだまだ固まっていなかった.魔人サソリが襲来した当時の日本は政治的に不安定で,十分に付け入るスキがあったというわけである.もっとも本作に登場する徳川家康は名君という雰囲気はなく,

徳川家康(左から2人目)と服部半蔵(右端)

背景の葵の紋がいい感じ(笑)
 
孫娘の誘拐にうろたえたり,迫りくる巨大怪獣の脅威を前に,老中や御庭番の服部半蔵に当たり散らすなどかなりの小人物に描かれている.これに対してミツルギ兄妹のスタンスはというと「別に徳川には何の恩もないが,百姓町人が虐げられるのは許せない.」と単純に義憤に駆られての戦いである.  



3.謎のサソリ軍団

 さて,舞台となっている江戸時代初期,すなわち17世紀初頭であるが,世界に目を向けるとヨーロッパではスペイン,オランダが海外進出を行っていたし,中東にはオスマントルコが,インドにはムガル帝国,東アジアには王朝末期の混乱期とはいえ明があった.宇宙からやってきた魔人サソリは,こうした海外の大国を無視して日本に攻めてきたわけである.第1話で魔人サソリ自身も「徳川を倒して我々が天下を取る」とはっきり宣言しているのだ.宇宙からの侵略というテーマにもかかわらず,狙われるのはなぜか日本ばかりというのは特撮界のお約束だが,もしかしたら征服した日本を拠点にして世界制覇を目指すつもりだったのかもしれない(戦国末期から江戸初期の日本は世界最大の鉄砲所有国だったという説もあるので,魔人サソリ的には日本が最大の脅威に映ったのか?).

白いマスクのサソリ忍者

サソリ忍者出動!
 
 で,この魔人サソリの主兵として日本侵略工作を行うのがサソリ忍者である.顔面に白い包帯を巻きつけたようなその姿は横溝正史の犬神家の一族に出てきた犬神佐清(スケキヨ)を彷彿させる.さそり座から地球に攻めてくるのだから,相当な科学力があると思われるのだが,彼らの主要な武器は刀と火矢である.なんと鉄砲すら使わない.この辺はあくまでも相手のレベルに合わせた武器で勝利したいという魔人サソリのこだわりなのだろうか(もっとも途中から巨大怪獣を繰り出してくるのだが).  



4.ミツルギ三兄妹

 このサソリ軍団に立ち向かうのが我らがミツルギ三兄妹というわけである.ミツルギ一族は代々忍者の家柄で,徳川家康や服部半蔵もその存在だけは知っているものの,実態は謎に包まれているらしい.魔人サソリの地球侵略を察知したミツルギ一族の長老道半からその企みを阻止するよう命じられたのが彼らである.長男の銀河,次男の彗星,妹(長女?)の月光の三人で,彼らは道半からそれぞれ「智」,「仁」,「愛」の剣を授かり,3本の剣を空中で交差させることによって巨大ヒーロー魔人ハンターミツルギに変身して怪獣と戦うのだ(二人変身はウルトラマンAや超人バロムワンの例があるが,三人変身は本作が初めてじゃないか).
 で,このミツルギ三兄妹のいでたちだが,頭にはヘルメットを被り,胸にはなぜか手榴弾をぶら下げるなど,思いっきり時代を超越している.せっかくサソリ軍団が江戸初期の軍事レベルに合わせてくれているのに,こっちが近代的な火器を使うので戦力バランスがおかしなことになってくる.

全然時代劇っぽくないコスチュームのミツルギ三兄妹

智,仁,愛の剣を構える
 
 他にも兄妹は様々な忍術を使う.忍者なんだから当たり前じゃないかという意見もあるが,変わり身の術とか,ネズミサイズに小さくなれるとか,ほとんど超能力みたいなものだ(中には時間を止めるという,スタープラチナみたいな技もあったから恐ろしい).なので戦闘で兄妹が不利になっても,どうせ忍術であっさり切り抜けるんだろうなと予想できるので,全く手に汗握らないのが悲しかった.  



5.アニクリエーション

 そして,魔人ハンターミツルギの最大の見ものが,クライマックスにおける怪獣とミツルギの戦闘シーンである.前述のように,着ぐるみの肉弾戦全盛期に人形アニメーション(アニクリエーション)を使った意欲作である.
 が,当たり前だが着ぐるみの格闘に比べてアニクリエーションは圧倒的に手間暇がかかる.映画ならいざ知らず,予算と時間に厳しい制約のある週一放送の30分番組でこれをやるのは正直きつかったようだ.結局撮影スケジュールは逼迫し,戦闘シーンは毎回かなり短いものになってしまった.またアニメーションの質も予算的制約からそれなりにならざるを得ず,結局完成したのは暗がりで人形がちょこちょこと動いて,気が付いたらミツルギが発射したミサイル(忍者ヒーローものでミサイルですよ 笑)で怪獣が燃え上がってお終いという,緊張感のない寂しすぎるものになったのである.
 このように魔人ハンターミツルギは乱立する他のヒーロー番組との差別化を図るべく,かなり特異な設定を取り入れたものの,それらがことごとく中途半端になってしまった作品であった.世間的にも大きな評判を呼ぶこともなくわずか12回で打ち切りになってしまったのは必然だったといえよう.
 とはいえ,CGなどの技術的に進歩した現代ならこの構想が輝くのではないか,そう思わせてくれるだけの企画がこの作品にあったと信じたい.


地震怪獣グラグランとの死闘

ミツルギの胸からミサイルは発射

砕け散る怪鳥べラドン
 
(注) 魔人ハンターミツルギは製作した国際放映が健在であることもあって,全話がDVD化されており簡単に鑑賞することが出る(サンダーマスクとは対照的である).  



 

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