意外にも1次審査にパスしてしまい,2次審査に進むことになった.2次審査は女優さんとの掛け合いの演技である.1次審査前に渡された台詞の紙を改めて見直す.場面は函館,五稜郭降伏の直前土方歳三が市村鉄之助に,自分の遺品を持って日野の佐藤彦五郎氏を訪ねるように命じる場面である.もちろん我々が土方の役をやるわけだが,鉄之助とのやり取りの後さらに官軍が現れるシーンが続き,最後に銃撃を受けて土方が倒れるシーンで終わるのである.つまり最初は鉄之助とのやり取りの場面,次に撃たれて倒れる場面にオリジナリティを出す必要があるわけである.
例によって番号の若い順に演技を行うため,私は必然的に最後の方になる.人々の演技が始まった.前半の鉄之助とのやり取りはやはり指揮官と小姓という関係を重視してか,毅然とした土方が鉄之助に命令するイメージで演じる人が多かった.そこで私はもっとフランクな土方のイメージを出そうと,ひざまずく鉄之助に対して自分も跪いて同じ目線になり,兄貴のようにニコッと笑って送り出すイメージ(元々顔がニヤけているのでこの演技は得意だ)でいった.一方後半の撃たれて倒れる場面については,鉄之助を送り出した直後であり,「鉄之助,約束を守れなくてすまん」という台詞にしようと思っていたのだが,私の前にこのネタでやった方がいたため急遽変更することにした(この場面では近藤勇や沖田総司の名を呼ぶパターンや「新選組万歳!」というベルサイユのばらを髣髴させるパターンもあった.また最高に傑作だったのは例の入籍直後の男性で,撃たれた直後に「入籍したばかりなのに・・・・・」という台詞でこれには場内大爆笑であった).私は原田左之助がよく仲間に自分の腹の傷(切腹し損ねて残った傷らしい)を見せながら「俺の腹は金物の味を知っているんだぜ」と自慢していたことを思い出して,「左之助,金物の味がわかったぜ」にした(果たして会場の何人の人が理解してくれたか不明だが).そんなこんなで無事2次審査も終了し,あとは発表を待つばかりとなった.審査結果が出るまでの間,今度は天然理心流の演武が行われた.
さあ,いよいよ2次審査の発表である.1次審査と違ってもう役付きになることは決まっているためなんとなく気が楽だ.司会の女の人が十番隊隊長の原田左之助役から順に発表していく.ちなみにこの配役は慶応元年七月(伊東甲子太郎とその仲間が入隊し,山南敬助が切腹した後)の編成表によるものであり,各隊の隊長は以下の通りである. |
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一番組 |
沖田総司 |
1841(天保12年)〜1868(慶応4年) |
二番組 |
永倉新八 |
1839(天保10年)〜1915(大正4年) |
三番組 |
斎藤 一 |
1844(天保15年)〜1915(大正4年) |
四番組 |
松原忠治 |
? 〜1865(慶応元年) |
五番組 |
武田観柳斎 |
? 〜1867(慶応3年) |
六番組 |
井上源三郎 |
1829(文政12年)〜1868(慶応4年) |
七番組 |
谷 三十郎 |
? 〜1866(慶応2年) |
八番組 |
藤堂平助 |
1844(天保15年)〜1867(慶応3年) |
九番組 |
鈴木三樹三郎 |
1837(天保8年)〜1919(大正9年) |
十番組 |
原田佐之助 |
1840(天保11年)〜1868(慶応4年)? |
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十番隊隊長原田左之助役から順に,名前を呼ばれた人が前に出て行く.九番,八番,七番,なぜか六番を飛ばして五番隊の武田観柳斎が呼ばれた.ここまで私の名はない.続いて四番隊の松原忠司,三番隊の斎藤一,二番隊の永倉新八となったがまだ呼ばれない.「まさか沖田?」と思ったが,やっぱり沖田役は色白の綺麗な女の人が呼ばれた.この段階で残ったのは私のほか,去年近藤局長をやった男性と土方の洋装をした女性のみである.司会の女性の声が響く.「さあ続きまして,新選組局長の近藤勇役は」,まさか自分,と思っていたが昨年局長をやられた方が今年も選ばれたのだった.うーん,自分が土方ってことはないよなぁ,と考えていると,「さあ続いて,特別賞六番隊井上源三郎は○×さん」ついに私が呼ばれたのだった.な,なんと特別賞らしい.当初どうして六番隊を飛ばしたのだろうと不思議だったが,源さんは日野市出身で地元では英雄なのであった(このことは翌日のパレードで強く実感することになる).そして土方の洋装をしていた女性がめでたく今年のミスター土方に選ばれたのだった.
壇上に上がって表彰を受ける.井上源三郎の子孫で資料館館長の方から(にこやかな方で,司会の女の人が私に似ているといっていた)各種記念品をいただいた.その後記念撮影,明日のパレードについての説明会とすすむ.記念撮影の後「六番隊隊長の方いらっしゃいますか」と私を探す声がした.行ってみると女の人がいて「明日のパレードの六番隊はうちの団員が勤めますのでよろしくお願いします」とのこと.「えっ,六番隊は一般参加の隊員じゃないんですか」と驚く私.どうやら六番隊というのはパレードの中の特殊部隊のようであった(やるな!源さん).
その後抜刀,納刀の練習をして5時過ぎに解散となった.いつの間にかKも会場に来ており,そのままタクシーでホテルに戻った.雨はさらに強くなっている.せっかく入賞したのに明日中止にでもなったら泣くに泣けない.自分はどちらかと言えば晴れ男なので,明日は頼むから晴れてくれと祈るような気持ちであった. |
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鉄之助に日野に行くように諭す私
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井上源三郎資料館館長の方と(どことなく似ている?) |
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