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 特殊相対性理論


相対性理論の世界へ

 現代物理学の両輪ともいうべきものが量子論相対性理論(相対論)です.
以前「シュレディンガーの猫」というタイトルでこのうち量子論について触れました.そこで今回は相対論について紹介したいと思います.

 量子論がデンマークの物理学者のボーアを初めとして,シュレディンガーハイゼンベルグといった多くの物理学者がアイデアを出し合う形で完成されたのに対して,相対論はほぼアインシュタイン単独によって作られました.そのため彼の独特の風貌と相まって一般には量子論に比べて相対論の方が知名度が高いようです.

 そんな相対論ですが,大きくわけて二つの理論から構成されています.それが特殊相対性理論一般相対性理論です.このうち特殊相対論は観測者や対象が等速直線運動(一定の速度で方向を変えない運動)をしている場合にだけ成立する理論で,一般相対論の方はそれ以外の場面でも成立するように発展させたものです.当然特殊相対論の方が先に完成されており,最初の論文が発表されたのは1905年のことです.
 一方の一般相対論はその約10年後の1916年に完成しています(量子論の完成が1920年代ですから,相対論の方が古いことになります).今回はこのうち前半の特殊相対論のお話です.

 本来相対論を学ぶためには古典物理学や電磁気学,数学の知識が必要なんですが,前回の量子論の時と同様に,これらの知識が皆無の人にも理解できるよう極力易しく解説します(かつて岩波文庫から名著「相対性理論入門」を著した内山龍雄先生じゃないですが,「これを読んで理解できないならあきらめて下さい」です 笑).

 さて,お話しを始める前に言葉の定義をします.数式を極力使わないことにしますから,この言葉の定義はとても大切です.

速度: 物体の進む速さに運動の向きを合わせたものです.ですから東に時速100キロで走る車と西に時速100キロで走る車は速さは同じですが,速度は違います(方向が逆).

加速度: 物体の速度が変わること.速さが増す(スピードアップ)減る(スピードダウン)の他に運動の向きが変わるのも加速度です.

等速直線運動: 一定の速度で一定の方向へのひたすらな運動.止まっているケースも速度0の等速直線運動とみなされます.それ以外の速度が変化する運動は加速度運動といいます.

相対性: 他者との関係に置いて成立するということ.反対語は絶対性

ではしばらくお付き合いください.
   


光速度不変の原理

 量子論や相対論は人間の思い込みや偏見を排除し,事実を素直に受け入れる姿勢から生まれました.量子論では光や電子が波であると同時に粒子でもあるという考えを受け入れるところから誕生しています.普通の人なら「波でもあり粒子でもあるなんてありえない,本当はどっちなんだ」と考えるでしょう.
でも波でもあり粒子でもある物体なんかありえないと誰が決めたのでしょう.光や電子の真の姿をその目で確認した人はいないのですから,あくまでもそんなものはないと思い込んでいるだけかもしれません.存在しないと証明されない以上,どんなに荒唐無稽に思えても否定はできないのです.
 一方で様々な実験結果はこれらが波であると同時に粒子であることを示していました.そこでボーアたちは「波であると同時に粒子でもあるような物体などありえない」という常識(思い込み)を捨て去り,結果を素直に受け入れるところから量子論を導いたのです.

 では一方の相対論誕生のきっかけとなった常識(思い込み)とはなんだったのでしょうか.それは光の速度です.光の速度はあまりに速いので長い間判りませんでしたが,19世紀になって精密な実験が可能になると,今知られているように秒速約30万キロメートルと理解されるようになりました.

 ところで私たちは場面によって速度は足したり引いたりできることを経験的に知っています.たとえば時速40キロで走っている車から見た時速50キロの対向車は時速90キロで走って来るように見えます.一方時速40キロの車から時速60キロで自分を追い越していく車を見たら時速20キロで追い越していくように見えます.また時速50キロで走る電車から,となりの線路を同じく時速50キロで同じ方向に走っていく電車を見るとお互いに止まっているように見えます.これらを速度の合成則といい古典物理学では常識とされているものです.

 じゃあこれを光に当てはめるとどうなるでしょう.速度の合成則に従えば,たとえば秒速10万キロで飛ぶの宇宙ロケットに対向してくる光はロケットの中の人からは秒速40万キロに見えるはずです(30万キロ+10万キロ).また同じロケットを後ろから追い越していく光は,ロケットからは秒速20万キロで追い越していくように見えるはずです(30万キロ−10万キロ).

 しかし意外なことに結果はそうではなかったのです.19世紀末から20世紀初頭にかけて多くの実験が行われたんですが(もっとも有名なのがアメリカのマイケルソンとモーリーの実験です),どんなシチュエーションで見ても光の速度は30万キロで一定でした.速度の合成則は光では成り立たないのです.

 そこで当時の物理学者はこのことを説明するために色々な仮説を提唱しました.しかし誰も満足な説明をすることはできませんでした.そんな時に登場したのがアインシュタインです.彼は従来の学者たちと発想を180度変えました.これまでの人たちは

「光速にも本当は速度の合成則が当てはまるはずなのだが,なんらかの理由で我々には観測できないのだ.その理由はなんだろう?」

というスタンスで考えていました.それに対してアインシュタインは「どんな状態でも速度が一定,これが光の性質なのだ」と実験結果を素直に事実として受け入れることにしました.そしてこれまでの学者たちが従来の物理学(古典力学)が正しいことを前提に理論を進め,その結果光の問題で壁に行きあたった反省から,光の速度はどんな時も一定という前提に立って従来の物理学を見直すことにしたのです.この「光の速度はいつも一定」という原理(光速度不変の原理)は相対性理論のもっとも重要な柱です.
   


同時刻の相対性

 実はこの光速度不変の原理を採用するとたちまち奇妙なことが起こります.まずはその例をお見せしましょう.

 真夜中,とある駅のプラットホームにあなたは立っています.あなたは正確な時計を持っています.今あなたの左手から秒速10万キロの一定速度で走る長さ20万キロメートルの1両の電車がやってきました(そんな電車ありえないですが,話をわかりやすくするため,そういう電車が存在することにします.こういうのを思考実験といいます).電車のちょうど真ん中に一人の人物が立っていて,彼(彼女)の頭上に電球がぶら下がっています.その人物もあなたと寸時も違わない時計を持っています.そして電車の両端にもあなた方と同じ時計が設置してあるものとします(絵1).
   

絵1
   
 今,電車の中央があなたの場所に来た瞬間,車内中央の電球が一瞬点灯しました.車内の人物からはこの光はどう見えるでしょう.
光速度不変の原理に従えば,車内の電球から発せられた光は秒速30万キロで電車の前後両方に広がります.その人物は電車の中央に立っていますから,彼(彼女)から見ると点灯の0.333…秒後(時間=距離÷速さなので)に電車の前後端に光は同時に到着します(絵2).
   

絵2
   
今ここで光が電車の前端に到達することを事件A,後端に到達することを事件Bとしますと,電車の人物から見た事件Aと事件Bは同時刻に起こるように見えます.ここまではなんの問題もないはずです.

 さて一方あなたから見た場合はどうでしょう.あなたから見た時も光速度不変の原理は成立しますから,電球が光った瞬間から光は電車の前後方向に,あなたから見てどちらも秒速30万キロで進んでいきます.ところがあなたから見た電車は動いていますから,仮に0.333…秒経過したとしても,電車の進行方向ではまだ光は前端に届いていません.しかし電車の反対方向ではとっくに端に到達していることになります(絵3).
   

絵3
   
あなたから見ると事件Aと事件Bは同時刻には起こりません.すなわち同じ現象を観察しているにも関わらず,電車の中の人から見ると同時刻に起こるのに,プラットホームからは同時刻には見えないのです.これは矛盾ではないのでしょうか.

 しかしアインシュタインはこれを矛盾と考えませんでした.人によって同時刻に見えようが見えまいが構わない,お互いにそれで困ることはないのだからという彼のスタンスです.これを同時刻の相対性といいます.同時刻という概念も絶対的なものではなく,それぞれの観測者(この場合は電車内の人物とプラットホームのあなた)ごとに違うのだということです.えらくムチャクチャな気がしますが,たしかにプラットホームのあなたの前を通過して行った電車は,二度とあなたの前に現れることはないのですからそうかもしれません(電車は等速直線運動をしているので永遠に遠ざかっていく).

 じゃあ,電車が途中で向きを変えて戻ってきたらどうなんだと言いたくなるかもしれません.その場合は電車は向きを変えるために加速度運動を必要としますから,今回の特殊相対性理論では扱えない話になるので,別に考えればいいのです.

 ひどいたとえでしたが,アインシュタインのいいたいことは,それまで自分たちが絶対普遍のものと信じていた時間というものが,実は絶対的なものではないのだということです.時間は誰から見ても同じリズムで時を刻んでいると私たちは思っています.しかしそれが実は真実ではないというのがアインシュタインの意見なのです.

注) 現実的な言い方をすると,事件Aと事件Bがプラットホームにいる人の目に届くのに要する時間は異なります.事件Aの映像が届くのに要する時間が長いわけですから同時刻でないことも実は不思議でないわけです.
   


走っている時計の遅れ

 続いて時間の相対性ということで有名なお話をします.

 速度と時間,距離の間には次のような関係があります.

速度=距離÷時間

これは小学校で習う算数ですからご存じでしょう.
この式を使ってひとつの思考実験をしてみます.今あなたは一両の巨大な電車の中央に立っています.この電車の床から天井までは15万キロメートルもあります(笑).あなたの目の前の床には1個の光時計が設置されています.この光時計の原理は床に設置した光源から発せられた光が電車の天井にある鏡に反射して光源に戻ってくることで1秒を刻む仕組みになっています(床の光源から天井の鏡を往復するとちょうど30万キロメートルになる).この電車は秒速10万キロメートルで動いているとします.

今あなたが光時計のスイッチを押すと,床の光源から光が時速30万キロで飛び出し,ちょうど0.5秒後に15万キロ上の天井の鏡で反射され,そこからさらに0.5秒で15万キロ戻ってきてちょうど1秒後に光源に戻ります.まったく原理通りで問題はありません.距離(30万キロメートル)÷時間(1秒)=速度(秒速30万キロメートル)です.
   
   
では次に電車の外にいる人からはこの光時計はどう見えるでしょうか.外部の人から見ると光源や鏡は動いていますから,光の進路は次のように見えるはずです.    
   
この場合は光は真上には行きません.時間とともに光源・鏡とも横に移動して行きますから,光は上図のように斜めに進むことになります.そして見ればわかるようにこの場合の光の一往復は電車の中から見た場合より距離が長くなっています(直感的に見ても斜めの線の方が長いですね).

 すなわちこの場合は光が30万キロメートル以上の距離を進んだ後,光源に戻ってきて1秒を刻むわけです(この距離を仮に30万+αキロメートルとします).
 ところが光速度不変の原理によって,このケースでの光の速度もやっぱり秒速30万キロメートルに観測されるはずです.ということは

速度=距離÷時間  の関係から言えば

左辺の速度が一定にも関わらず,分母の距離が大きくなったわけですから必然的に分子すなわち時間も大きくなるはずです(そうでないと式が成り立たない).
しかし,最初の光時計の定義に従えばこれも立派な1秒です.つまりは外部の人間から見た場合,動いている時計は遅く見えることになるわけです.これが相対性理論では有名な,走っている人の時計は遅れるという現象です.
 この現象から推定される奇妙な現象が俗に浦島効果と呼ばれるものです.

 ここにとある若い宇宙飛行士(30歳とします)がいます.彼には同い年の恋人と4歳年下の弟がいました.今回彼は光速度の99%もの速度が出せる宇宙ロケットに乗って,地球から10光年離れた星に向かい,そこに到着してすぐに地球に戻ってくるというプロジェクトに参加しました.
 地球から見たときロケットはほぼ10年ちょっとかかってその星に到着したように見えます(光速の99%のロケットなので).そして往路と同じだけの時間をかけて地球に戻るため,ロケットが地球に帰還した時,地球上ではほぼ20年の時が経っていることになります.
 一方ロケットの中の宇宙飛行士はどうでしょう.先ほどの動く時計は遅れるという相対性理論の予言に従えば,ロケットの中の時計の進み方は地球上よりもゆっくりになります.計算してみると,光速の99%で走るロケットの中では地球が20年たっている間に1.7年(1年8ヶ月)しか経っていないことになります.地球に戻ってきたとき,30歳だったパイロットはもうじき32歳と若いままですが,この間に地球では同い年だった恋人は50歳に,彼の弟は46歳になっていたのです.これはまるで竜宮城から戻ってきた浦島太郎のようなシチュエーションであることから浦島効果と呼ばれています(この議論には重大な問題があるんですが,それについては一般相対性理論のお話の時に書きます).
   


走っているものの距離が縮む

 前節では光速度不変の原理によって動いている時計は遅れるというお話をしました.今度は少し見方を変えて考察したいと思います.
 あなたは今,高速の99%で飛ぶロケットに乗って地球から1光年離れた宇宙ステーションに向かいます.地球から見た場合ロケットのステーション到着は約1年後ですが,前節のように光速に近い速度で走るロケット内の時計は進み方が遅くなるため,ロケットの中の人から見ると約2か月でステーションに着いてしまうことになります.
 所要時間が短くて済むのだから結構じゃないか,と言ってる場合ではありません.実はここで大きな問題が発生するのです.地球と宇宙ステーションとの距離は1光年,すなわち光速で飛んでも1年かかるという距離です.仮にこの距離をロケットが2か月で走ったとすればその速度は軽く光速を超えることになるからです.これは光速度不変の原理に反します.光速度が一定であることを維持させるためには,地球と宇宙ステーション間の距離が短くならねばならないのです.すなわち,走っているものから見ると周囲の距離は縮んで見える.これが相対性理論から導き出される次なる現象です.
 同様のことは,宇宙列車に仕掛けられた時限爆弾の話としても知られています.
 仮に秒速27万キロ(光速の90%)で等速直線運動している列車があるとします.今この列車が長さ30万キロのトンネルに差し掛かっています.列車の先端にはなんと!時限爆弾がセットされていて,列車の先端がトンネルの入り口を通過した瞬間にスイッチが入り,列車内の時計で1秒経過すると爆発するようになっています.一方でトンネルの出口には別の仕掛けが作られていて,列車の先端がそこに到達すると時限爆弾が解除されるものとします.この場合列車の運命はどうなるのでしょうか.列車の外の観測者から見ると,列車の先端がトンネルを通過するのに要する時間は30万キロ÷27万キロで1.11…秒,わずかの遅れで列車は爆発してしまいそうです.しかし実際には列車が爆発することはありません.そのわけは,爆発までの所要時間が列車内での1秒だからです.先ほどの宇宙ステーションに向かうロケットの例でもお話ししましたが,高速で走行している観測者から見ると周囲の距離は縮んで見えます.そのためこの場合,列車側から見たトンネルの長さは約13万キロメートルとなり,列車の先端がトンネルを通過するのに要する時間は13万キロ(距離)÷27万キロ(速度)=0.48秒(時間),すなわち列車の爆発は回避されることになるのです.
 一方で,速度の上昇に伴い長さが縮んでいくという現象に従うと,物体が光速に近づくにつれてどんどん長さが短くなり,計算上光速に達した時大きさがゼロになります.いくら縮んでも,物体である以上大きさがゼロということはないのですから,あらゆる物体は光速にまで加速されることはないということが導き出されるわけです.すなわち相対性理論によると光速は宇宙の最高速度であり,どんなに頑張っても光速を超えることはできないといっているわけです.
   


質量とエネルギーの等価性

 最後に質量とエネルギーのお話をしてこのコーナーを締めたいと思います.
 中学や高校の理科で習う重要な法則に質量保存則とエネルギー保存則があります.これは何らかの物理現象の前後での質量およびエネルギーの総量は不変であるという法則です.モノを燃やすと灰になって軽くなりますが,実際には燃えることによって生じる二酸化炭素を含めて計算すると燃焼前後での質量に変化はありません.また時速200キロの鉄球が壁にぶつかってめり込んで止まったようなシチュエーションでは,鉄球の運動エネルギーは熱などの他のエネルギーに形を変えただけで,やはり前後でのエネルギーは一定です.
 ところが,先述したように光速が宇宙の最大速度であるとすると困ったことが起こります.物体にエネルギーを加えるとその速度は増していきます.運動エネルギーは 1/2mv2 で表されますが(mは物体の質量,vは速度),方法論はさておき理論的にはエネルギーはいくらでも物体につぎ込むことができます.今秒速20万キロで運動する電子を想像します.電子の質量は非常に軽く 9.1×10-31キログラムしかありません.この時の電子の運動エネルギーは 1.8×10-14ジュールになります.ジュールとはエネルギーの単位で,食品のエネルギーで有名なカロリーとの間には 1カロリー=4.2ジュールの関係があります.この電子に仮に 3.0×10-14ジュールのエネルギーを加えてそれがすべて運動エネルギーになったとすれば,この時の電子の速度は秒速100万キロになってしまうからです.相対性理論では秒速30万キロを超えることはできないため,加えたエネルギーすべてが運動エネルギーに変わることは許されず,エネルギー保存則が崩れてしまうのでしょうか.
 一般人ならあきらめてしまいそうですが,ここでアインシュタインは革命的なアイデアを思いつきます.運動エネルギー 1/2mv2 を構成しているもう一つの要素,質量に目を付けたのです.

「電子に加えたエネルギーが質量に変化したとすれば,仮に速度が増えなくともエネルギー保存則は破たんしない」

 すなわちエネルギーと質量とは互いに変換しうるものだというのです.そしてアインシュタインはエネルギーと質量との関係が E=mc2 で表せることを突き止めました.Eはエネルギー,mは質量,そしてcは光の速度です.原子力発電などで知られる核分裂反応はウラン235などの放射性物質が核分裂で他の原子に変わる際にわずかに減少する質量がエネルギーに変化するものです.この質量がエネルギーに変化しうるという概念こそ,相対性理論が私たちの日常生活に大きな影響を与えた例といってもいいかもしれません.
   



 

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