19世紀と20世紀の違いはというと,主要エネルギーが石炭から電力に変わったことかとも思われますが,20世紀と21世紀の違いはおそらく情報通信技術の革命的な進歩にあるといえるでしょう.
現代では私達は瞬時に世界中の情報に接することができますが,昔はそうではありませんでした.それこそ南国に住む人は雪というものを見たことがなく,教えられなければ一生知らないまま,教えられても概念を理解できないという感じです.
その極端な例が今回の話題,古代文明における川の話です.
古代エジプトはナイル川流域に栄えた文明ですが,ナイル川は地図を見ればわかるようにビクトリア湖周辺から北上し地中海に至る大河です.その長さは世界最長といわれています.
その一方古代エジプト文明はメソポタミア文明と違って諸民族の興亡がなく,周辺との交流が少ない文明でした.このためエジプトの民はナイル川流域についてしか知識がなく,自分達が住んでいるナイル川流域が世界の全てと思っていました.
しかし,紀元前16世紀から紀元前13世紀ごろの新王国時代になるとエジプトはシナイ半島を越えて進出,当時メソポタミアで隆盛を誇っていたヒッタイト帝国と壮絶な戦いを繰り広げます.戦い自体は勝ったり負けたりでしたが,メソポタミアに攻め込んだエジプト兵士た ち,彼らはそこで世にも不思議なものを目撃したのでした.
それがチグリス・ユーフラテス川でした.
「なんと,川が南に向かって流れている!!」
笑ってはいけません.現代人は水は高きから低きに流れるもので,方向なんか問題ではないことを知っています.しか し古代エジプトの庶民にとっては「川=ナイル」であり,川というものは南から北に向かって流れるものというのが常識だったのです.遠い異国で彼らが見た南流する川の話は,「さかさ川」として当時の記録にも残っているそうです.
もしかしたら帰国した後に,「お父さんは昔南に流れる川を見たことがあるんだぞ」などと子供に自慢したりしたのかもしれません.
さしずめ,将来人類が地球に良く似た他の惑星にたどり着いた時,「この星では太陽が西から昇る!」と驚く場面があるのかもしれませんね.
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