物事には
順と
逆があります.一般に順行することに比べて逆行することは困難を伴います.たとえば追い風で走るのは楽ですが,逆風に逆らって走るのは大変です.日本−アメリカの航空路では偏西風に乗っていく日本→アメリカ便に比べて,逆行するアメリカ→日本便は1時間以上余計にかあることもあります.
数学の世界にも同じような概念が存在しています.
算数&数学の世界で計算することを
演算などと呼びます.演算の中で一番基本的なものが
足し算です.
一方,ある演算にはその逆の操作を行うことになる演算があって,これを逆演算といいます.先程の例いえば,足し算という演算の逆は
引き算ということになります.考えてもわかると思いますが,足し算に比べて引き算の方が難易度が高いです.この場合は
足し算が順で引き算が逆ということになります.
ただこういうと,引き算を基準にすると足し算の方が逆になるんじゃと考える向きもありそうですが,ちょっと違います.理由として集合という概念で考えてみます.
たとえば 3+4=7
という足し算を考えてみましょう.元の数字3,4はともに自然数です.そして答えの7もまた自然数です(自然数とは1,2,3,… という1個,2個などと数えられる数字のことです).このように自然数同士の足し算では必ず結果も自然数になります.これを数学的には「自然数は加法について閉じている」といいます(加法とは足し算のこと).
じゃあ引き算ではどうでしょう.
6−3=3
という引き算では元の数字も結果もどちらも自然数です.でも,
2−5=−3
では元の数字は2つとも自然数ですが,答えの−3は自然数ではなく整数になっています(整数とは自然数に0と,−1,−2,−3といった数を加えたものです).
すなわち引き算では元の数字が自然数であっても結果が自然数になるとは限りません.数学的には,「自然数は減法について閉じていない」のです(減法は引き算の意).
このように引き算をするには元の数字の世界(この場合は自然数)の考えだけでは解決できないケースが含まれているわけです.これが足し算が順で引き算が逆と考える理由です.
同様に掛け算とその逆の割り算について考えてみましょう.
2×3=6, (−4)×2=−8
のように元の数字が自然数,整数の場合,答えもまたそれぞれ自然数,整数になります.つまり「自然数,整数は乗法について閉じている」わけです(乗法は掛け算のこと).
一方で割り算についてはどうでしょう.
2÷7=0.275814……
これで判るように,元の数字が自然数であっても答えは自然数になるとは限りません.自然数でも整数でもない数,有理数 になってしまうケースがあるわけです(有理数とは小数点以下が有限な小数や小数点以下が繰り返しの数字になる小数です.こういう小数は必ず分数の形で表せます).「自然数,整数は除法について閉じていない」わけです(除法は割り算のこと).
割り算が掛け算より楽しくないのは皆さんも子供のころ感じていたでしょう.
そして演算の順と逆の最後として平方と平方根をあげておきます.
平方とはある数字を2回掛けることです.たとえば,2の平方は2×2=4,5の平方は5×5=25です.平方は所詮は掛け算ですから,自然数・整数で閉じています.
一方,平方の逆の計算が平方根になります.
すなわち2回掛けるとその数字になる元の数は?ということです.俗にルートとも呼ばれます.
4の平方根は2×2で2,16の平方根は4×4で4となりますが,一方で3の平方根は
√3=1.7320508……
となって,少数点以下無限に続く数字になります.しかもこの数字は先ほどの有理数のように小数点以下が繰り返しにならず,分数の形では表わすことができません.これは無理数と呼ばれる数です.つまり平方根は自然数,整数はおろか有理数についても閉じていないことになります(有理数と無理数を合わせて実数と呼びます).
計算の難易度でも平方は単なる掛け算ですが,平方根の計算は泣きたくなるようなシロモノであることは容易に想像がつくと思います.
今回は計算における順と逆の例を紹介しました.
いつかは関数での順と逆を紹介したいと思います.