今日は珍しい血液型の話題です.血液型といえば
ABO式が有名で,その組み合わせから
A型・B型・AB型・O型の4種類に分類されることはよく知られています.
しかしながら血液型というのはこのABO式だけではなく,ほかの分類法もあります.世間的にもよく知られているものが
Rh式で,これはアカゲザルの赤血球の表面に発現している抗原(Rh因子)と同じものを持っているか否かによって陽性・陰性とする分類です(ちなみにRhとはアカゲザルを意味する”
rhesus monkey”の最初の2文字).もっともRh因子は1つではなく,主なものでD因子,C因子,c因子,E因子,e因子の5種類があります.このうちCとc,Eとeは対立因子なので,考えられる組み合わせとしてはCDe,
cDEなどのようになります.そして人間は両親から一つずつ遺伝子をもらっていますから,結局はCDe/cDE などの組み合わせで因子を持つことになります.これを記号で表現したものが,
CcDEeという形です(このケースではRh 5因子すべてが陽性になります).
これらRh因子は陽性の人が多いんですが,もちろん陰性という人も少数ですが存在します.この5種類のRh因子のうちで臨床的にもっとも重要なのが
D因子です.仮にD陽性の血液を陰性のヒトに輸血した場合,血液の凝集や溶血が起こることがあるからです.一方残りのC, c, E, e因子は抗原としての力が弱いため,臨床的にはさほど重要視されておらず,一般にRh陽性・陰性という場合はD因子の有無を指します.たとえばRhマイナスAB型といった場合にはABO式ではAB型を示し,Rh D因子が陰性である血液型のことになります.このRh マイナスは日本人では非常に少なく,全体の約0.5%しかいませんが,白人には結構多くて約15%の人がマイナスなんだそうです.
で,さらに残り4つのRh因子(C, c, E, e)を含めた5因子すべてが陰性という人がごく稀に存在し,こういう血液型を
Rh null(null=ヌル とはドイツ語でzero=ゼロのこと)といいます.D因子だけでも陰性の人はかなり少ないんですから,5つ全部となるとどれほどの確率なんだろうと考えてしまいますが,2014年末に
ネット上に出ていた記事によると,全世界で40人程度存在するとのことです.
これだけレアなタイプになると,仮にその血液型の人が輸血を必要とした場合どうなるのか心配になりますが,実は過去に刑事ドラマ「
太陽にほえろ」でこの話題が取り上げられたことがあります.昭和52年に放送された第243話「その血を返せ」というエピソードです.
Rh nullの人への輸血が必要になり,アメリカから緊急輸入された血液が盗まれ… という展開だったんですが,当時劇中で医師と思しき人が「Rh nullは世界に5人しかおらず,そのうちの2人がアメリカにいる」と発言していた記憶があります.この数十年で5人が40人になったわけではないでしょうが,仮にその血液型だったとしても,一般の検査ではただのRh マイナスとしか判定されないので,実際にはもっと多くの人がいる可能性もあります(注).Rh nullはRh抗原を全く持たないために,一部ではすべての人への輸血が可能と書かれているものもありますが,現実にはABO型は存在するし,Rh以外の抗体系もあるため,正しい表現ではありません.
(注) 太陽にほえろ以外にも,同じく昭和52年にTBS系で放送された「
赤い激流」(宇津井健,水谷豊ダブル主演)にもこの血液型の話題が出てきて,こちらではRh nullは2000万人に1人となっていました(当時の世界人口が40億なので計算上は200人いることになる).